平清盛に想いを馳せた「いつくし丸」

今年の大河ドラマに合わせて制作してきたお菓子が、完成しました。
厳島神社への参道沿いに本店がある藤い屋さんが、平清盛の大海への夢や、
都の雅やかな文化への憧れに想いを馳せて焼き上げたものです。

安芸守であった清盛に縁の深い、地元広島の大長レモンと、
京都・宇治の抹茶を使った香り高い焼菓子。形は舟に見立てています。

「いつくし丸」という名前は、
コピーライターの永松聖子さんの多くの案をもとに、
長いやり取りの中で出てきた彼女の一言をキャッチ。
清盛が修造に関わって熱心に信仰した厳島神社にちなみ、
しかも舟であることを意味する名前です。

パッケージの形状は、ごく自然に舟型に着地しました。
それから、厳島神社に伝わる貴重な古い図録、平家物語に関する書籍、
家紋や伝統紋様についての資料に何度も目を通し、
キーワードを拾いながら、思いつくままにラフを描いていきました。

平家の紋である蝶をモチーフにする案は早い時期に出ていましたが、
進取の気質に富んだ清盛の表現が、伝統的な素材そのままではあり得ません。
十二単に象徴される雅な世界をグラフィカルにというのも、
いかにも自分らしくまとめたゴールが見えてしまう・・・。

清盛の夢を乗せて出航する舟は、どんな舟なのだろう。

檜扇を蝶に見立てた「檜扇蝶」という家紋がありますが、
あるとき、大海に舞う檜扇蝶が向き合って羽を広げる姿が浮かびました。
平家の色である赤とスミ文字を入れてみたとき、
この先に答えがありそうな手応えをようやく掴んだのでした。


徹夜で仕上げたデザインは、本来は一拍おいて見直すべきなのですが、
時間がないこともあり、意図の文章を添えてすぐにクライアントに送信。
返ってきたメールには、これまで以上のご好評が書かれていて、
まずはホッとし、少し眠ってから細部を仕上げていきました。

永松さんとWEB担当の金具智子さんから、異口同音に
「いい意味で裏切られました」という言葉をもらえたことも収穫です。
仲條正義さんからいただいた「裏切りが必要」を座右の銘としながら、
なかなか実践できていなかったという自覚があるので、
もっと変わる勇気を持とう、という想いを新たにしました。

 

幸いなことに、発売から五日間で初回制作分を完売したそうです。
まだ広告も何もしていない中での幸先の良いスタート。
2012年という大海に向かって、新しい美味しさが出航しました。

 

撮影:大森恒誠
菓子器制作:玉川堂