島田雅彦氏の『佳人の奇遇』を装丁

年末に装丁した本の見本が届きました。島田雅彦氏の『佳人の奇遇』という、講談社文庫の一月の新刊です。担当編集者は斎藤梓さん。裏地桂子さんのお友達で、彼女のブログから私のサイトをご覧になり、紹介されたといういきさつです。
判型はもちろん、紙も基本フォーマットも決まっており、印刷も普通の4色プロセスのみという文庫本の装丁は、実は初めてでした。単行本では、本としての物質的な魅力を出すための工夫をあれこれしてきましたが、今回はそういう手管は使えません。丸腰での勝負と言いますか、グラフィックの原点に立ち返る覚悟の必要性を感じました。
実は島田さんの小説を読むのも初めてでしたが、さっそく原稿を読んだところ、これがお世辞抜きで本当におもしろいのです。上質なエンターテインメントで、読みやすさと知性のさじかげんがいい塩梅。小説の核となるモーツァルトの歌劇『ドン・ジョヴァンニ』のCDをさっそく購入し、YOU TUBEでの映像も見て、この本の世界へとぐんぐん入っていきました。

何日か過ぎ、繰り返し聞くモーツァルトが脳に良い効果を与えてくれたのか、装丁のアイデアが湧いてきました。この本は、『ドン・ジョヴァンニ』の楽曲を指揮するタクトの動きに乗って展開されるような、さまざまな恋愛群像劇。それを象徴的に表現するために、タクトの軌跡をモチーフに選びました。しばりがある文庫本であることをプラスに捉えた、シンプルな着地点です。

帯はこんな感じです。島田氏の本を読んだことのない人にも手に取っていただけたら、という気持ちをこめてデザイン。1月14日頃に発売のようですので、興味のある方は店頭でご覧になってくださいね。

映画『レオニー』からの贈り物

映画『レオニー』を鑑賞して、その直後に松井久子監督を囲む懇親会。そんなギリークラブの企画に昨年末に参加しました。主人公レオニーがあのイサム・ノグチの母というところに関心があった私は、前から観たいと思っていたのです。
観る人によって受け取るメッセージが分かれそうに思いますが、私には理屈抜きで深く心に残る作品でした。激動の時代を強く生きた一人の女性の生き方として勇気をもらえるだけでなく、大きな愛情でイサムを天才芸術家に育てあげていく過程も、クリエイターとしてはとても興味深いところでした。

日本の風景をとらえるカメラワークの美しさと、繊細で叙情的な音楽との調和も、この映画の大きな魅力。私が、日米合作というよりヨーロッパ映画のような印象を受けたのは、この映像と音楽によるところが大きいと思います。
さっそくサウンドトラック盤を購入し、年末の日々に繰り返し聞きました。

DVDではなく劇場で観ることをお勧めしたい作品です。松井監督は、30代前半くらいの若い女性にもっと見ていただきたいと言っておられましたが、私自身が最もよく映画を観ていたのは20歳前後。あの頃の自分に見せてやりたかったな、と思いました。

1月で終わる劇場もありますので、ぜひお早めに。

新しい年の初めに

あけましておめでとうございます。
新しい年の始まりは、自分がデザインしたennの漆プレートに盛りつけたお節にシャンパン。この後、お煮しめやなますに日本酒を合わせ、しめはやっぱりお雑煮です。おもちは、年末に海老原ファームからいただいてきたつきたてを、自分で力いっぱい切り分けました。器は輪島の桐本さんの真新しいすぎ椀。見た目にも美味しいお椀になりました。

午後は地元の用賀神社に初詣に向かい、帰りは自宅から徒歩2分のオフィスに立ち寄って、年賀状の束をピックアップ。デザイナー仲間からのは、形状も様々、印刷加工にも凝ったものが多く、干支であるうさぎのふわふわな質感を表現する起毛加工のものも複数ありました。

今年は、建築家のキドサキナギサさんと一緒に昨年から進めている自宅マンションのリフォームを通して、空間と家具デザインの基盤をつくる、という目標がまずひとつ。これは公私にわたる目標と言えます。そして、環境を整えた上で、2月に三回忌がやってくる愛犬ココの二代目を迎えたいという願いを今年こそ・・・。

仕事では、いま進めているいくつかのプロジェクトと、この先発生するであろう案件に対して、守りに入ることなく革新の姿勢で取り組みたいと思います。でも、こういう新年の抱負を三日坊主にせずに意識し続けることこそが、なにより大切ですね。