裏地桂子さんと「ア・ニュ」へ

私がデザイン面のサポートをさせていただいているフレンチレストラン、「ア・ニュ」。今月の27日には開店一周年を迎えますが、予約のとれない店として知名度を上げつつあります。
先日は、裏地桂子さんとディナーをご一緒しました。目利きである上に、質の高いお店に通い慣れている裏地さん。お連れするのはさすがに緊張しましたが、「うん、美味しい!」の最初の一声に、自分が店のスタッフであるかのようにホッ・・・。
一つの素材を同時に二種類の調理法で味わえる「コンパレゾン」のコースに、一皿ごとのワインのマリアージュ。ア・ニュらしさが最も味わえるお奨めの組み立てで食事は進み、素材の本質が抽出されているようなスープ類には、身体の奥深くにすうっとしみ込んでいく滋味が感じられました。

明日の24日は、お客さまをお招きして一周年記念のパーティーが開催されます。おもてなしの初心にかえり、ア・ニュという言葉が意味する「ありのまま」について、スタッフ全員が再び向き合う機会になることでしょう。私も、外からの客観的な目線を忘れることなく、コミュニケーションデザインのご提案をしていきたいと思います。

富山から金沢21世紀美術館へ

高岡でのレクチャーの晩は富山市に移動し、はせがわさとしさんら地元JAGDAのデザイナーさんたちとの小宴でした。この夜のことは、さっそくはせがわさんがブログに書いてくださっています。富山という土地は、実は私が生まれて二ヶ月だけ過ごした地でもありますが、札幌と並んでデザイナーががんばっている地域として、デザイン界に名を馳せています。この日同席した若手たちも地元にしっかりと根をおろし、さらに活躍していくことでしょう。
翌朝は当然のように寝不足でしたが、予定通り金沢21世紀美術館へと向かいました。

「ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス」の展覧会(12月25日まで)が開催されていました。特に印象的だったのは「事の次第」という映像作品で、坂を転がるタイヤとか燃料が入ったガラス瓶とか、数々のガラクタが次々に連鎖して「コト」が起きていく過程を記録したものです。
ドミノ倒しのような整然とした連鎖ではなく、微妙に、すれすれのところでつながっていく関係性の表現。次に起きることは簡単に予測がつくのに、それがかえって期待となって目が離せず、じっと見入ってしまいました。

私の身の回りで起きていることも、こんな風に辛うじてつながった結果かもしれません。だとしたら、願わくばよいことが連鎖していきますように。

高岡で伊東順二氏とレクチャー

三連休の真ん中の10日、富山県高岡市にレクチャーに行ってきました。富山県デザイン協会が主催する産学ワークショップのキックオフということで、美術評論家の伊東順二氏が「守・破・離(syuhari)」というテーマでお話をされ、そのあと私が「世界に発信する地域ブランド」というタイトルでennのことを語るという二部構成です。
「守・破・離」は、受け継がれたものを守り、現代に合わなくなった物を捨て去り、新しく独自の工夫を加え、今までの型を越えてオリジナリティを出しながら、もとの本質は見失わないという千利休の茶道の心得。一般社会での仕事の仕方にも当てはまりますが、特に伝統的地場産業には欠かせない考え方と言えるでしょう。
ennのブランディングも然り。守るものがあり、捨てるものがあり、よそにはない新しい価値の創出があり。その先に経済活性だけではなく文化が花開くことも意図して進めているプロジェクトです。

伊東氏は、茶の湯での「型」の話などのほか、空間そのものを工芸作品とした金沢21世紀美術館での世界工芸トリエンナーレを例にとって話を展開されました。ベテラン、若手という区分もなく、個々の作品の価値がシャッフルされて一度に目に入ってくる空間。「風景」が見える展示に、工芸の現在と未来に対する明解な視点が感じられました。

ennのプレートでディナー

下村浩司シェフの二ツ星レストラン、エディション・コウジ シモムラで週末のディナーを楽しみました。顔ぶれは、ennのプロデューサーであるキッチンプランニング代表の明道章一さん、ennの鎚起銅器の制作を担当する玉川堂当主の玉川基行さん、明道さんがマネージメントしているビューティーレシピストの松見早枝子さん。松見さんが下村シェフにennの鎚起プレートを紹介してくださり、ご購入いただいたということから、みんなでプレートの置かれた様子を見ながら美味しい食事を、という話になったのです。
席に案内されると、シルバーと深い紫金色の2色のプレートが、4名分セットされていました。一枚の銅板を手で打ってつくる鎚起銅器ならではの質感とよそにはない色味を持つプレートが、テーブルの上で放つ存在感。モノの本来あるべき姿と思えるたたずまいを見られるのはデザイナー冥利につきますね。
下村シェフは備品をすべてご自身でじっくりと選んだもので揃えておられ、このプレートも大変お気に召していました。今回はサービングプレートとしてのみの使用でしたが、これから使い方を考えていかれるようで楽しみです。

三陸産の牡蠣に岩海苔を合わせた、印象的な一品で始まったディナー。お料理ごとに合わせて出されるワインも素晴らしく的確なコーディネイトでした。

野菜畑を訪ねました

きゅうり農家のブランディングの仕事で、栃木県下野市に行ってきました。美味しいブルームきゅうりをつくる生産者のみなさんから、現状の問題点やこれから目指していくところなどをじっくりとうかがったあと、各農家の畑を回りました。畑に入るのは、子どもの頃に親戚の家の畑で遊んで以来かと思いますが、野菜が実っている様子を間近に見るのは、やっぱりわくわくしますね。もぎたてのきゅうりをぽりっとかじると、みずみずしさと歯ごたえに思わず笑みがこぼれます。
私の仕事は、生産者さんが丹誠こめてつくる野菜の価値を的確に消費者に伝えること。みなさんがやる気いっぱいなのと、自分自身が想定ターゲットのど真ん中ということもあり、楽しい仕事になりそうです。

最後は、様々な野菜の詰め合わせを2週間ごとに送ってくださる海老原ファームで、お気に入りの葉もの野菜たちと待望のご対面。種類の違う野菜が同じ土で仲良く並んで育てられているところは、ビジュアル的にもきれいですが、一皿のサラダになったときにストーリーを持つと思います。ここでも畑からそのまま摘んでムシャムシャ・・・。訪れた人の美味しい顔を見るのがなにより嬉しい、と言ってくださる海老原さんは、私にとりたての野菜やハーブをどっさりお土産にしてくださいました。
上質な素材は揃っているのです。あとは、こちらががんばるのみです。