越中富山のおすそわけ

高岡のレクチャーで久しぶりにお会いしたデザイナーの中山真由美さんから、宅配便が届きました。地元で活躍する彼女が、富山の魅力を伝える「越中富山お土産プロジェクト」に参加しているという話は聞いていましたが、これがその商品のようです。

地場産業のシンボル・ロゴなどが評価されている中山さんらしい、「富」の文字が人の形にも見えるシンボルをあしらった手提げ。おすそわけというコンセプトも伝わってくるデザインです。中には盛りだくさんなお土産が詰まっていました。

「しろえびの姿干し」、「ほたるいかの燻製」のような富山らしい酒肴からスイーツ類までの9品。様々なメーカーの食品が共通のデザインでまとめられているので統一感があり、少量多品目を味わえるのも楽しいです。
どれも素材を活かした丁寧なつくりで美味しいのですが、特に「幻魚(げんげ)せんべい」はサクサクの食感とインパクトある名前、コラーゲン入りというのも嬉しい逸品でした。

私は地域の産業をデザインでお手伝いする仕事が多く、クライアントと地理的な距離がある分、首都圏ユーザーとしての視点とヨソモノならではの客観性を生かしています。ただ、この仕事のように、その土地で暮らすデザイナーだからこそ生み出せる価値というものは確実にある、と、あらためて感じました。

Gマーク大賞は羽を持たない扇風機

昨日、六本木のミッドタウンホールにて、今年のGマークの大賞選出と表彰式が行われました。審査委員としては、数ヶ月にわたったお仕事の最後のシメです。

大賞候補であるベスト15の対象が電光掲示板に並び、各対象ごとに4分以内のプレゼンテーションが始まります。今年もまた、クルマやテレビ、カメラのような「モノ」から、施設空間、システムなどの「コト」をつくる対象まで幅広い秀作が揃い、私自身も、プレゼンの内容によっては、心が揺れ動く可能性もありました。
昨年までの投票は、メダルを審査委員は10枚、一般の受賞者は1枚持ち、壇上に並んだ容器に入れるというアナログなものでしたが、今年は手もとのスイッチを押す方式に変わり、ライブ感は少し減りました。でも、結果を待つワクワク感は例年通りです。

一回目の投票で、上位5点にしぼられました。私が投票したダイソンの「エアマルチブライアー」という扇風機はこの時点でトップとなりましたが、2位との差が100票未満のため、上位5点での決選投票になります。再びスイッチオン。

2位と137票の差がある437票を獲得し、ダイソンの大賞が決定しました。2位の「ナインアワーズ」も、斬新なカプセルホテルのあり方を提案し、サインやグラフィックのクオリティも極めて高い対象。ただ、私自身の投票の基準は、それまでの既成概念を根底から覆すくらいに発明性が高いもの、ということでした。2010年は、アレが誕生した年だよね、と言えるような時代のアイコンになり得るものです。

羽を持たない扇風機は、それにふさわしいものでした。指をはさまれる恐れもなく掃除も簡単、エアコンと比べて時代遅れな存在などではなくむしろエコ、という革命的な扇風機。なにより、丸い穴があいた、見たこともないビジュアルです。理屈を越えて、多くの人々の心を掴んだのでしょう。

表彰状を手にしたダイソンのプレゼンテーターの笑顔。最前列の真ん中に着席していたため、間近で喜びを分けていただけました。

大賞選出のあとは、私たち審査委員が受賞者の方々に表彰状をお渡しする授賞式です。今年は、受賞者の中に、かつて在籍したパルコの後輩がいました。子どものいる母親の社会活動を応援する授乳服づくりを評価された「モーハウス」代表の光畑由佳さんです。実は、この日が初対面。

このあと、裏地桂子さんの出版記念パーティーへと向かいました。4冊目の著書「お家ごはんが美味しくなる口福の調味料100味選」の出版に、多くの方々が駆けつけて大盛況。私がデザインした、彼女の出来立ての名刺も活躍している様子。
昼も夜もおめでたいこと続きの一日でした。

広島ADC年鑑が届きました

3月に審査委員をさせていただいた、広島アートディレクターズクラブ(広島ADC)の年鑑が届きました。地域のADCは富山が第一号で、その影響を受けて札幌が続き、また連鎖して新潟、広島と次々に誕生していきました。
これまで、どの審査会にも呼んでいただきましたが、すべて公開審査なので、出品者たちの視線を痛いほど感じながら、彼らの目の前で投票していくことになります。作品の良さを見抜けるのか、審査委員も出品者たちにきびしく審査されるわけです。
この広島の審査会は、東京からの4名の審査委員の個性にかなりの幅があり、最後までことごとく意見が分かれました。グランプリ候補も一転、二転し、候補に挙がった出品者はハラハラドキドキのジェットコースター状態だったようです。


年鑑のはじめの方には、私たちの審査評がアップの顔写真とともにのっているのですが、私を除く男性3名には共通点がありました。全員が坊主頭ということです。

グランプリの納島正弘さんの作品ページで、受賞作は「ヒロシマ・ナガサキ議定書」の絵本のプロモーションポスターです。世界でも稀有な過去を持つ広島ならではの力作であり、PEACEを題材にした作品が多い中でも抜きん出ていました。
年鑑のブックデザインも彼が担当。ますますおもしろくなっていきそうな広島のデザインの今が、ぎゅっと詰まった一冊です。

裏地桂子さんと「ア・ニュ」へ

私がデザイン面のサポートをさせていただいているフレンチレストラン、「ア・ニュ」。今月の27日には開店一周年を迎えますが、予約のとれない店として知名度を上げつつあります。
先日は、裏地桂子さんとディナーをご一緒しました。目利きである上に、質の高いお店に通い慣れている裏地さん。お連れするのはさすがに緊張しましたが、「うん、美味しい!」の最初の一声に、自分が店のスタッフであるかのようにホッ・・・。
一つの素材を同時に二種類の調理法で味わえる「コンパレゾン」のコースに、一皿ごとのワインのマリアージュ。ア・ニュらしさが最も味わえるお奨めの組み立てで食事は進み、素材の本質が抽出されているようなスープ類には、身体の奥深くにすうっとしみ込んでいく滋味が感じられました。

明日の24日は、お客さまをお招きして一周年記念のパーティーが開催されます。おもてなしの初心にかえり、ア・ニュという言葉が意味する「ありのまま」について、スタッフ全員が再び向き合う機会になることでしょう。私も、外からの客観的な目線を忘れることなく、コミュニケーションデザインのご提案をしていきたいと思います。

富山から金沢21世紀美術館へ

高岡でのレクチャーの晩は富山市に移動し、はせがわさとしさんら地元JAGDAのデザイナーさんたちとの小宴でした。この夜のことは、さっそくはせがわさんがブログに書いてくださっています。富山という土地は、実は私が生まれて二ヶ月だけ過ごした地でもありますが、札幌と並んでデザイナーががんばっている地域として、デザイン界に名を馳せています。この日同席した若手たちも地元にしっかりと根をおろし、さらに活躍していくことでしょう。
翌朝は当然のように寝不足でしたが、予定通り金沢21世紀美術館へと向かいました。

「ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス」の展覧会(12月25日まで)が開催されていました。特に印象的だったのは「事の次第」という映像作品で、坂を転がるタイヤとか燃料が入ったガラス瓶とか、数々のガラクタが次々に連鎖して「コト」が起きていく過程を記録したものです。
ドミノ倒しのような整然とした連鎖ではなく、微妙に、すれすれのところでつながっていく関係性の表現。次に起きることは簡単に予測がつくのに、それがかえって期待となって目が離せず、じっと見入ってしまいました。

私の身の回りで起きていることも、こんな風に辛うじてつながった結果かもしれません。だとしたら、願わくばよいことが連鎖していきますように。

高岡で伊東順二氏とレクチャー

三連休の真ん中の10日、富山県高岡市にレクチャーに行ってきました。富山県デザイン協会が主催する産学ワークショップのキックオフということで、美術評論家の伊東順二氏が「守・破・離(syuhari)」というテーマでお話をされ、そのあと私が「世界に発信する地域ブランド」というタイトルでennのことを語るという二部構成です。
「守・破・離」は、受け継がれたものを守り、現代に合わなくなった物を捨て去り、新しく独自の工夫を加え、今までの型を越えてオリジナリティを出しながら、もとの本質は見失わないという千利休の茶道の心得。一般社会での仕事の仕方にも当てはまりますが、特に伝統的地場産業には欠かせない考え方と言えるでしょう。
ennのブランディングも然り。守るものがあり、捨てるものがあり、よそにはない新しい価値の創出があり。その先に経済活性だけではなく文化が花開くことも意図して進めているプロジェクトです。

伊東氏は、茶の湯での「型」の話などのほか、空間そのものを工芸作品とした金沢21世紀美術館での世界工芸トリエンナーレを例にとって話を展開されました。ベテラン、若手という区分もなく、個々の作品の価値がシャッフルされて一度に目に入ってくる空間。「風景」が見える展示に、工芸の現在と未来に対する明解な視点が感じられました。

ennのプレートでディナー

下村浩司シェフの二ツ星レストラン、エディション・コウジ シモムラで週末のディナーを楽しみました。顔ぶれは、ennのプロデューサーであるキッチンプランニング代表の明道章一さん、ennの鎚起銅器の制作を担当する玉川堂当主の玉川基行さん、明道さんがマネージメントしているビューティーレシピストの松見早枝子さん。松見さんが下村シェフにennの鎚起プレートを紹介してくださり、ご購入いただいたということから、みんなでプレートの置かれた様子を見ながら美味しい食事を、という話になったのです。
席に案内されると、シルバーと深い紫金色の2色のプレートが、4名分セットされていました。一枚の銅板を手で打ってつくる鎚起銅器ならではの質感とよそにはない色味を持つプレートが、テーブルの上で放つ存在感。モノの本来あるべき姿と思えるたたずまいを見られるのはデザイナー冥利につきますね。
下村シェフは備品をすべてご自身でじっくりと選んだもので揃えておられ、このプレートも大変お気に召していました。今回はサービングプレートとしてのみの使用でしたが、これから使い方を考えていかれるようで楽しみです。

三陸産の牡蠣に岩海苔を合わせた、印象的な一品で始まったディナー。お料理ごとに合わせて出されるワインも素晴らしく的確なコーディネイトでした。

野菜畑を訪ねました

きゅうり農家のブランディングの仕事で、栃木県下野市に行ってきました。美味しいブルームきゅうりをつくる生産者のみなさんから、現状の問題点やこれから目指していくところなどをじっくりとうかがったあと、各農家の畑を回りました。畑に入るのは、子どもの頃に親戚の家の畑で遊んで以来かと思いますが、野菜が実っている様子を間近に見るのは、やっぱりわくわくしますね。もぎたてのきゅうりをぽりっとかじると、みずみずしさと歯ごたえに思わず笑みがこぼれます。
私の仕事は、生産者さんが丹誠こめてつくる野菜の価値を的確に消費者に伝えること。みなさんがやる気いっぱいなのと、自分自身が想定ターゲットのど真ん中ということもあり、楽しい仕事になりそうです。

最後は、様々な野菜の詰め合わせを2週間ごとに送ってくださる海老原ファームで、お気に入りの葉もの野菜たちと待望のご対面。種類の違う野菜が同じ土で仲良く並んで育てられているところは、ビジュアル的にもきれいですが、一皿のサラダになったときにストーリーを持つと思います。ここでも畑からそのまま摘んでムシャムシャ・・・。訪れた人の美味しい顔を見るのがなにより嬉しい、と言ってくださる海老原さんは、私にとりたての野菜やハーブをどっさりお土産にしてくださいました。
上質な素材は揃っているのです。あとは、こちらががんばるのみです。

岐阜に帰っています

締め切りをいろいろと抱えながらも、連休は岐阜に帰省しています。私ひとりのときは実家に泊まりますが、今日のようにふたりのときは都ホテルが定宿。山頂に岐阜城がそびえる金華山と長良川という眺めが窓いっぱいに広がる快適な部屋で、川を渡れば川原町の古い街並の散策もできる、岐阜のよきエッセンスが詰まった地域なのです。
岐阜に着くとすぐにランチに向かうのが、川原町の泉屋さん。長良川上流の天然鮎づくしがいただけるお店です。落ち着いた外観に比べて、インテリアがログハウスのようなカジュアルさではありますが、塩焼きが絶品です。

岐阜駅から向かう際に、今回初めて岐阜バスのICカード、「アユカ」を購入しました。実はこのアユカは私が2006年にデザインしたもので、クライアントの要望により裏面に私の名前がクレジットされています。そのため、岐阜の友人からの年賀状では「名前見ました。すごい!」とか「子どもが持っているので、自慢しています」など、地元の仕事でしかありえない貴重なリアクションが得られました。

ネーミング案がいくつかあった中から、岐阜らしさと親しみやすさのある「ayuca」を選び、バスという公共交通機関を使うことで長良川の清流に代表される美しい自然を守れたら、というコンセプトでデザインしました。定期券として使用されることも多いため、文字情報がかかっても邪魔にならない位置に鮎のファミリーを配しています。

今夜は飛騨牛の「花ざくろ」。こちらも毎回訪れる岐阜の定番のお店です。それを楽しみに、もう少し原稿書きをしようと思います。

きゅうりとデザイン

ここ数年、農産物の分野にも「デザイン」が入ってきているのを感じます。以前より食の安全、安心、その上での美味しさが求められる時代になり、作り手と消費者のコミュニケーションが重要になってきたことの現れでもあるのでしょう。「何々産のお米」「誰々さんの野菜」といった表現はすでに定着した感がありますが、より進化して、ものづくりのストーリーも伝えるブランディングの動きが出てきているようです。
つい最近、私にも、美味しいきゅうりをつくる農家さんのグループをデザインでお手伝いする仕事の依頼がありました。現在、市場に出回っているきゅうりの大部分は、ブルームレスきゅうりと呼ばれる色つやが良くて皮が固めのものですが、彼らが作っているのは、昔ながらの表面に白い粉をふいたブルームきゅうり。皮がやわらかくて歯ぎれも良く、生協でよく購入していたので、私にはむしろこちらの方がおなじみでした。
グループのメンバーである海老原ファームさんからどっさり送られてきた、素晴らしく力強い味わいの野菜を一週間で平らげた私は、喜んでこの仕事をお引き受けしました。

一昨日の夜、渡辺幸裕氏のギリークラブの主催でこの農家さんたちのきゅうりを主役にした「きゅうりとマクロビ」というパーティーがありました。料理研究家の庄司いづみさんのきゅうり料理の実演と、チャヤマクロビの浅場康司総料理長によるきゅうり料理の数々を味わえる、なかなかない貴重な体験。農家のみなさんも、我が子の変身ぶりに驚きながらも舌鼓を打っておられました。

まずは、きゅうり畑を訪ねるリサーチに行ってこようと思います。